文書・資料の作成にあたり、最も重要なことは、「誰に何を伝えるのか」と「読み手に何をしてほしいのか」を明確にすることです。このため、読み手によって、文書・資料に掲載する内容も変わってくるのです。これは、基本中の基本なのですが、意外に文書・資料を作成する書き手は、この点を見落としがちです。
例えば、保育園で遊具が壊れてしまい、遊んでいた園児がケガをしたとします。このため、担当保育士が事故報告書をまとめることになりました。報告書の構成を「1 事故の概要 2 事故の経緯 3 ケガをした園児の状況」として、保育園の園長に提出しました。この場合、資料作成者(書き手)は担当保育士、読み手は園長となります。担当保育士としては、園長に事故の状況を理解してもらうことと、この内容を園長から保育課長に報告することが、「読み手に何をしてほしいのか」に該当します。
しかし、園長としては、課長に報告するにあたり、先の構成では不足として、新たに「4 今後の対応」を追加するように、担当保育士に伝えました。なぜなら、園長からすれば、読み手は課長となるのですが、課長には、この事故について部長などの上司や議会に報告してもらいたいのです。部長や議員は、「再発防止のために何をするのか」と必ず聞くと判断し、資料の修正を命じたのです。読み手が変われば、必要な情報も変わってきます。
次に、この事故報告書を保育課の施設管理担当に提出するとします。この場合、読み手である施設管理担当職員にしてほしいことは、この遊具の安全性について確認することです。仮に、普通に遊具を使っていたにも関わらず、事故が発生したとします。すると、事故のあった保育園としては、「この遊具は本当に安全なのか、確認してほしい」が読み手にしてほしいこととなります。そのため、事故報告書には、遊具の型番や設置年月日などの情報が加えられます。そして、報告書をもとに施設管理担当職員は、メーカーに間い合わせたり、他の保育園で同様の事故の有無を確認したりすることになります。
さらに、この保育園では、事故に関して保護者説明会を開催するとします。この場合、資料の読み手は保護者となります。そして、保護者に何をしてほしいかといえば、事故の概要を理解してもらうこと、「自分の子供を保育園に通わせても大丈夫だ」と安心感を持ってもらうことです。そのためには、事故の発生原因や今後の対応策が重要な内容になってきます。
以上のように、同じ事故報告書であっても、読み手は様々であり、伝える内容も変わってきます。また、その読み手にしてほしいことも違ってきます。この点を理解しないで、ただ自分の持つ情報を漫然と書くだけでは、適切な文書・資料にはなりません。読み手も納得できないので、業務にも支障が出てしまうのです。
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