平気で部下を売る上司がいます。部下を売るとは、上司が自己の保身や利益のために、部下を裏切ったり、見捨てたりすることです。
ある日、部長から課長に対して資料の要求がありました。このため、課長は担当者である主任に、資料の作成を命じます。資料が完成すると、課長は部長のところへ行って説明します。しかし、そこで部長から「この資料のデータは、間違っているだろう」と指摘されてしまいました。
このような時に、課長は「この資料は、管理係の山下主任に作らせたのです。彼もまだまだだな」などと、ミスの原因を部下に押し付け、平気で部下を売り飛ばしてしまうのです。その様子は、さも時代劇の「殿、下手人はこいつでござる」と言わんばかりに、自ら進んで首を差し出すようなものです。勝手に下手人にさせられてしまう部下としては、いくら自分のミスとは言え、いい迷惑です。
言うまでもなく、資料の確認をしなかった課長自身に責任があります。しかし、その責任は棚に上げてしまうのです。できる部長であれば、課長が先のような発言をしようものなら、「それは、確認しなかったお前の責任だろ」と課長を一喝して終わりなのですが、このように平気で部下を売る上司は少なくありません。
部下を売る行為をすれば、上司の評判がガタ落ちになることは、自明の理です。それにも関わらず、こうした行為が繰り返される理由、つまりは部下を売る上司の心理は、「自分は悪くない!」、「自分の責任ではない」という思いがあるはずです。上司の前では、自分は「良い子」であり続けたいのでしょう。言い方を変えれば、責任を他人に押し付ける「他責思考」、私は良い子なんですという「承認欲求」があるとも言えます。
こうした上司は、残念ながら多くいます。特に、公務員の場合は、役割分担が明確なためにミスや失敗をした人は、特定しやすいのです。このため、「悪者」が固定化されやすいという特徴があるかもしれません。加えて、公務員はどうしても減点主義的発想になりがちなので、そうした「悪者」に対して注目が集まりがちです。
しかし、このように「部下を売る上司」ばかりだったら、部下のやる気はなくなり、モチベーションも下がってしまうでしょう。そして、何か新しいことや改善に取り組もうという意識はなくなり、「とにかく、言われたことだけを間違いないようにやろう」という後ろ向きの姿勢になってしまいます。
そのような状況になったとしても、その職員を責めることはできないはずです。ちなみに、私の先輩で、かつてこうした「部下を売る上司」に遭遇したことがきっかけで、「長のつくポストには就かない」と決めた職員もいました。
ただ、こうした「部下を売る上司」には対抗策を講じておかなければ、こちらが被害を受けるだけになってしまいます。そのための手段としては、やはり「上司も了承した」ことを明確にしておく必要があります。例えば先の資料であれば、主任はそのまま資料を課長に渡すのでなく、簡易決裁などの形で係長・課長に回して了承したサインなどを残しておくわけです。そうすることで、「係長や課長も了承していた」という事実を残すことができます。
先のケースで、「山下君、困るじゃないか。さっきの資料に間違いがあると、部長に言われてしまったよ」などと、厚顔無恥な態度で言ってきたのなら、黙ってその決裁文を渡して、「あれ、課長も確認しましたよね」と明るく切り返してあげることが可能となります。
言い方は悪いのですが、このような平気で「部下を売る上司」には、どうしても自己防衛措置を講じないと、ただただ自分が不利な状況に追い込まれてしまうので、注意が必要です。
ちなみに、先ほどのケースは実話なのですが(名前はもちろん仮名です)、実際にその主任の取った方法は異なりました。なんと、部長に直接メールして、経緯を説明したそうです。その後、部長が課長を呼び出し、こっぴどく怒られたのは言うまでもありません。部長からすれば、資料の間違いの原因は何かよりも、課長の人事管理・マネジメント力を問題視したのです。やはり、困った上司には、いろいろと対抗策が必要なようです。
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