人に向かって何かを伝える必要がある時、「自分の言いたいこと」だけを伝えている職員が意外に多いと感じます。相手のことをあまり考えていないのです。しかし、これでは相手になかなか伝わりません。
例えば、ある職員が空き家対策に関して新規事業案を検討する担当になったとします。この場合、事業概要(事業内容、予算、実施時期など)は誰にとっても必要な基本情報となります。担当職員は、これをまとめて係長に案を提出します。その際、係長視点で考えれば、①事業実施した場合の担当者は誰にするか、②係全体のスケジュール上の問題はないか、③課内の他の係への影響はあるか、などが気になるはずです。
次に、係長の了承を得て、課長に案を提出するとします。すると、課長としては、①議会に対して事業の必要性をどのように説明するか、②他課で類似事業を実施していないか、③課内の事業を整理統合する必要はないか、などの視点で考えることになります。
このように、同じように新規事業案を説明するのであっても、聞き手によって気になる点(視点)は異なるわけです。担当職員としては、こうした聞き手の属性に応じて、説明ができるようにしておく必要があります。仮に、課長から先の点について質問があった時に「その点については、考えていませんでした」では、新規事業の説明としては不十分になってしまいます。
また、この事業実施が決定し、住民へ周知することになりました。この際、先の事業概要について伝えるのはもちろんですが、「そもそも、なぜこの空き家対策事業を行う必要があるのか」についても説明が必要となります。すべての住民が空き家が問題になっていることを知っているとは限らないからです。しかし、庁内であれば、わざわざ職員や上層部に説明する必要はありません。全国的に空き家が問題になっていることは、職員であれば既に認識しているからです。
また、市内の空き家の現状も、ほとんどの住民は把握していません。このため、庁内では説明不要だった情報も、住民に対しては周知する必要が出てくるわけです。このことは、「聞き手には、どの程度の前提知識があるか」に配慮しなければならないことを示しています。
このように、話し手としては聞き手の属性や前提知識などに応じて、話さなければなりません。さらに、上司が忙しい時に何かを伝えようとしても、聞く耳を持ってくれないように、話す時間や場所などについても配慮する必要があります。このように、聞き手に応じた話し方が必要なのです。単に、話し手が「自分の言いたいこと」だけを伝えているのでは、聞き手に効果的に伝わらないのです。そして、結果的に時間をムダにしてしまうのです。
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