答弁の持つ性格として、「答弁は、質問した議員だけでなく、首長・部下・他の議員も聞いている」ということがあります。答弁は目の前の議員だけでなく、広く住民に向けたものであることは既に述べました。しかし、それ以外にも意識すべき人がいるのです。先に挙げた人々に対する意識がないと、思わず足元をすくわれてしまうことがあるので、注意が必要です。
まず、首長です。厳密に言えば、首長だけでなく、自分の上にいる部長、副市長などは、しっかりと部下である課長の発言を聞いています。例えば、野党議員の厳しい質問に拒絶しきれずに、つい「ご指摘の点については、今後検討してまいります」などと、妥協する答弁をしてしまったとします。
こうした時、「なぜ、そんな生ぬるい答弁をするのだ! はっきり、できないと言え」と上から怒られるかもしれません。首長の政治姿勢を踏まえると、野党議員に付け入る隙を見せてはいけないと考えるからです。このため、答弁後に怒られる課長もいます。
課長が自分の課のことばかり考えてしまい、他の課の動向を踏まえない答弁もダメです。例えば、「市内の〇〇大学との連携については考えておりません」と答弁してしまったものの、実は他の課で連携を考えているようなこともあるからです。
また、部下の係長や主任も、課長の答弁を聞いています。例えば、予算委員会の答弁対策として、せっかく部下が想定問答集を作成したにも関わらず、肝心の課長が、問答集に書かれた内容とは全く別の発言をしてしまったら、やはり部下はやる気を失ってしまうでしょう。
実は、議員の質問には事務的な内容も多くあります。議員の質問内容によっては、課長よりも部下の方が良く知っているということは少なくありません。せっかく議員から質問のヒントを得られたにも関わらず、部下に確認しないために、公の委員会の場で間違った答弁をしてしまう課長がいます。こうした時も、部下は「うちの課長は…」と考えてしまうかもしれません。
さらに、他の議員の視点も忘れてはいけません。野党議員の立場に寄り添うような答弁をしてしまうと、与党議員から思わぬ反発をされてしまうことがあるからです。担当課長とは、野党議員の追及をかわしたつもりであっても、実は与党議員からクレームが来るということがあるのです。
このように、議会での答弁は、様々な方向を見て考える必要があります。もちろん、あまりに多方面を気にし過ぎて、何も答弁できなくなってしまうのは困るのですが…
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