「公務員ならでは」と言っても良いかもしれない、困ったタイプの典型の1つが、この「前例踏襲に固執する人」です。
皆さんにも、このような経験はないでしょうか。例えば、住民がこれまで受給していたサービスについて、サービス内容の変更を申請する際、「変更申請書」と変更理由の説明を記載する「申告書」の2枚の紙を提出する必要があったとします。
しかし、この担当となった若手職員が、「わざわざ2枚に分ける必要はなく、1枚にまとめた方が良いのではないですか」と、至極当然な意見を係長に言いました。しかし、前例踏襲に固執する係長は、「いや、これは2枚に分けて提出してもらうことに意味がある」などと反論します。そこで、若手職員がその理由を尋ねるのですが、どう考えても分ける理由とは思えませんでした。
再び係長に意見すると、「君はまだ若いから、わからないかもしれないけれど……」と、もはや理由にならない理由を言って、煙に巻こうとします。さらに、突っ込むと「いや、わざわざペンで書くことにこそ意味がある」などと、変な精神世界の言葉を口にするのです。この係長としては、書式を変更すると、要綱なども変更しなければならないので、「面倒くさい」というのが本音なのです。
このような事例もあります。ある施設では、利用者数を男女別・時間別・利用目的別で集計することが業務となっていました。これまでは、それを手作業で行っていたのですが、そこに配属となった新人職員が、「表計算ソフトで自動計算するファイルを作った方が、楽じゃないですか」とこれまた当然のことを言います。
しかし、施設長は反対します。なぜなら、自分が表計算ソフトを扱えないからです。ですが、そのようなことは恥ずかしくて言えませんので、導入しない方が良い理由を並べ立てます。「お一人ひとりを数えることで、本来の住民サービスのあり方がわかる」など、もはや理解不能な世界に誘おうとするのです。新人職員にとっては、もはや意味不明です。
世間一般の方からすれば、「そんなこと、あるはずないでしょ」と思うかもしれません。しかし、実際の公務員の世界では、これがまかり通っているのが恐ろしいところです。
結局、この不毛な争いは、「これまでの方法で問題はなかった」と「改善した方が良い」とのバトルです。この両者の争いを数字で例えるならば、前者は「マイナスにはならない(だから、何の問題もない)」であり、後者は「改善すればプラスなる(だから、改善すべきだ)」という対立軸になります。
民間企業であれば、効率性・採算性を重視しますので、後者が勝つのが一般的だと思うのですが、役所では、前者の方が勝率は高くなります。
なぜなら、①前者に属するグループはベテラン職員であること(上司曰く「オレの指示に従え!」)、②「現在の方法で問題がないならば、あえて変更する必要はない(「今のやり方で、問題はないんだろ」)、③「変更して問題があったら、誰が責任を取るんだ(「お前、責任を取るんだろうな」)、などの要素が影響するからです。こうしたことがあるため、改革派はどうしても負けてしまうことが多いのです。
さて、こうなると組織は停滞していきます。なぜなら、いっこうに事務は改善されず、非効率で生産性が高まらないからです。これは、民間企業にとっては死活問題になりますが、税金で守られている役所は安泰です。こうして、お役所仕事は継続していくのです。
また、このことは職員のやる気を確実に奪います。改革派の職員も、最初はやる気があったものの、次第に「この組織には、何を言っても無駄だ」と諦めて、無気力になっていきます。そして、年月を経ると、かつて若手職員だったその人が「これまでの方法で問題はなかった」と、新人職員の意見を押さえつけようとするのです。そうです、これまたミイラ取りがミイラになる現象です。
役所全体がそうだとは言いませんが、このような風土が残っているのは、否定できないでしょう。こうしたことを改善するためには、やはり「前例踏襲に固執する人」に、ものを言い続けていくしかないように思います。諦めてしまった時点で、その人もまた「前例踏襲に固執する人」になってしまうかもしれません…… というのは、言い過ぎでしょうか。
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